無意識目標に引っ張られる

私は、カウンセリングを戦略的に進めることを指導している。戦略的とは、目標を確立し、その目標を達成するためのプロセスをきちんと追えるということだ。こう書くと当たり前のように思える。ただ、これを実際に行うのはかなり難しい。

というのも、人は何かの行動をするとき、必ずしも目標を意識できていないからだ。意識していても、その方向に進めないことも多い。言い換えると意識していない目標に向かって行動してしまうのだ。これを私は「無意識目標に引っ張られる」と表現している。

例えば、ゴルフのドライバーを打つ時、このコースはまず150メートルのところに、小さく落とすと、次のショットがやりやすくなると考えたとしよう。ところがほとんどの素人は、ドライバーを振り回してしまう。それは、スコアメイクをするという意識目標より、「200メートルかっ飛ばしたい(すごいと言われたい)」という無意識目標が勝ってしまうからだ。

優秀な女性なのに、社内で表彰されたり抜擢されるかもしれない重要な局面で、なぜかパフォーマンスが出ない人がいる。これも「業績を上げたい」という意識目標に対して、「目立って敵意を買いたくない、成功して次も期待されたくない」という無意識目標に引っ張られるからだ。

ダイエットしたいという意識目標に対し、きちんと栄養を蓄えたいという無意識目標が、リバウンドをもたらす。

無意識目標は、その名の通り、本人には意識できていないことが多いことが厄介だ。

「戦略的にことを進める」の中には、この無意識目標への適切な対応が、かなりの部分を占めている。

 

カウンセリングの訓練では、カウンセラーは、いろんな無意識目標と闘いながら成長する。

まずは、「話を聞こう」という意識に対し、「早く解決策を与えたい、頼りがいがあると思われたい」という無意識目標の克服。これはかなり大変な作業だ。それ(いわゆる傾聴)がようやくできるようになってくると、次の試練。「きちんとアドバイスしなければならないケースだ」と戦略的に判断しているのに、「しっかり聞きたい、アドバイスしたくない」といういつまでも傾聴してしまう癖がつい出てしまう。結局、クライアントが望むものを与えられないことになる。

 

この「無意識目標に引っ張られる」は、感ケアで伝えている「ゴールデンファイル」と同じ現象。

カウンセリングとは、クライアントの心を変えるスキルだと思っているかもしれないが、そのためには、カウンセラー自身の心を使う。つまり、カウンセラーがゴールデンファイルから自由になり、クライアントのためになる方向へカウンセリングが動くように、自分の心を制御していかなければならないのだ。カウンセリングを勉強するときは、心理学などの学問を覚えるという意識の作業より、自分の価値観を整理していく無意識へのアプローチのほうが100倍重要なのだ。