どうして素人の私がメンタルの専門家になったのか

 プロフィールでも紹介したように、私は心理学を大学などで勉強したこともなければ、カウンセリングの資格を持っているわけではありません。そんな私がどうしてたくさんの本を書き、多くの皆さんにメンタルヘルスのお話をすることになったのか、少しご紹介させてください。

1 幹部自衛官のスキルでメンタルヘルス支援現場を経験

  幹部自衛官は「戦術」を学びます。戦術とは何の前例も決まりものないところで、状況を正しく把握し、自分ができることを客観的に分析し、ゴールを達成する「思考法」です。私はたまたま組織からメンタルヘルスを担当せよと命じられました。その時に、自分は何ができ、何をするのがクライアントのためになるのかを白紙的に考え、それを行動に移し、自分なりの理論を体系化していったのです。

2 うつの経験

  私自身がうつになり、精神科を受診し1か月の休養を経験しました。本当に以前の自分に戻るまで1年のリハビリ期が必要でした。

3 サイコロジカルオートプシーの経験

  なぜある人が自殺をしたのかを検証する技法にサイコロジカルオートプシー(心理学的剖検)というものがあります。亡くなった方の周辺への聞き取りや資料などから、どうして自殺に至ったかを客観的に分析する手法です。私は、学術的ではありませんが、そのような体験を300例ほど経験してきました。おそらくこれは世界でも非常にまれな体験だと思います。

 

 このように私は、人がどのようにうつ状態に陥り、そして回復していくのかを、支援者の立場から、つまり「外」からたくさん見てきました。そしてそのトンネルを自ら潜り抜けてきました。外から見る景色と中から見る風景は全く違いました。さらに不幸にもそのトンネルを抜けられずに自殺に至るケースと数多く接するうち、自殺に至る人とそうでない人は何が違うのかも実感として理解するようになったのです。

 私の理論やケア手法は、学術的な背景のあるものではありません。しかし、現場では有効だったものです。だからこそ、ありきたりの表面的な知識で満足できない方々や現場で必死に活動する皆さんが、私の話に耳を傾けてくださるようになったのです。