「体験」すること

メンタルレスキュー協会の10周年の総会講演会に、九州大学名誉教授の村山正治先生をお呼びしました。村山先生は、あのロジャースの下で直接学んだ方です。

先生の講義・演習は大変興味深いものでしたが、その中でも私個人的には「体験」についてのお話が印象的でした。

私なりの稚拙な解釈で単純に言うと、「人は、体験してみないと納得しない、成長しない」ということ。体験とは単なる経験ではなく、経験をもとに、自分なりにしっかり考え、自分の価値観を磨いていくことを意味します。

体験の重要性は、私がこれまでこのブログでも何度か指摘している「学ぶことの弊害」にもつながります。

机上の学びは、何となくわかった気になる。私はこれを「借り物理論」と呼んでいます。多くの知識人は、「だれそれの説ではこうだ」と理論を説明できます。が、実際に本当に納得し、深く理解し、それを現実の活動に適応できているかどうかは別。

例えば私の本を読んで、「知っていることばかりだった」という感想が聞かれることがありますが、ほとんどの場合、借り物理論的な理解です。実際に、実習をしてみて、あるいは少しずつ現場で使ってアレンジしてみて、ようやく「なるほどこういうことか」と、深く納得できる段階が訪れます。このようにしっかり自分のものにできていれば、私は、それを「自分理論」と呼んでいます。(なお、私のこの分類には、相手理論、一般理論という上位の理解もあります。)

私たち実践家は、借り物理論の数を増やすのではなく、自分で経験し、自分で考え、しっかりとした自分理論を構築していく必要があると思っています。

村山先生の講義やワークは、先生が単にロジャースから学んだものではなく、それをご自分でしっかり考え、現場に適応させてきたものだと感じました。

ロジャースは、留学した若き村山先生に再三言ったそうです。

「正治、君は君の方法を見つけなさい」

体験による成長の大切さをもう一度思いださせてくれた素晴らしいエピソードでした。