大阪なおみさんのうつについて、理解できない人が多いようだ。理解できない人の考えも理解できる。彼女は、テニスの最高峰のタイトルを4回も取り、女性プロ選手で世界一の収入を得ている。また、おそらく厳しい練習や試合を何度も潜り抜け、並外れた精神力を持っているはずだ。それなのに、たかが記者会見がつらいと、大会そのものを棄権するなんて…。
理解するための3つのポイントがある。
1つ目、第2段階うつ。私はうつ状態を3段階に分けている。第2段階は、いつもの刺激や活動が2倍つらく感じる状態。しかしこの段階では、気合を入れて、いつも以上のパフォーマンスを挙げる人も多いのだ。だから周囲には、うつには見えない(これを私は「表面飾り」と呼んでいる)
2つ目、うつの痛いところ。うつには症状がある。例えば、足を骨折すれば歩くのは痛いが、手作業はできる。骨折していてもEスポーツはできるだろう。ただ症状のある足をちょっと動かそうとすると激痛が走る。
うつの痛いところとは、不安感、自信のなさ(無力感)、自責感、負担感。どんなにお金があっても、大会で優勝しても、ネットを見れば、自分を攻撃する人が大勢いると感じ、自分にはその人たちをどうすることもできない、今後何をされるかわからない(もしかしたら命を狙われるかも)と不安になる。振り返ると自分がその種をまいている部分があるように感じる(自責)。こうなると、どういう質問を受け、どう報道されるかもわからない記者会見は、怖い場になる。敵の反感を買う可能性のある場なのだ。うまく乗り越えようとしても、とてつもなく負担で避けたくもなる。うつのクライアントで、一人仕事はできても記者会見やプレゼンなどの公共の場がつらいという人は多いものだ。
3つ目、死にたい気持ち(死にたいほどのつらさ)
本人が表明していないから、あまり触れられていないが、うつの2段階以降は、死にたい気持ちが生じやすい。苦しさが、2倍、3倍になる。それは、この苦しさを止められるなら、死んでもいいと感じるぐらいつらいのだ。
この「程度」を一般の人は理解できない。例えば、10キロの重りをもって歩く人が、20キロの重りを担いでいるようなつらさに感じるのが2倍。何とか耐えて歩けるかもしれない。でも、30キロの重さの感じがずっと続くとなったらどうだろう。
大阪なおみさんが、このつらさが続くのならテニスなんて止めてもいい、と感じるのは普通のことだ。
大阪なおみさんは、うつを表明することができた。すばらしいことだ。表明しないと、周囲は理解できないし、対応もしてくれない。きちんと休息がとれれば、うつの症状は軽くなる。また、あの素晴らしいプレーが見られるのをゆっくり待つことにしよう。